シカ肉を生で食べる危険性の考察

山賊ダイアリーのファンの皆様こんにちわ。
そうでない方もこんにちわ。

さて、山賊ダイアリーファンなら誰でもご存知の話に「シカ刺し」があります。
具体的には「第3巻第31矢目:シカの解体と調理」に書かれてます。
その中で「48時間以上冷凍して殺菌して・・・」って話が書かれてます。
もともとこの部分の話の時に違和感ありました。
「冷凍って殺菌効果ってあったっけ?!」
これがずっと悩みでしたが、作中ではその後「シカ刺し」自己責任で食べる様子が書かれてます。

で、次に野生動物の危険性についても書かれていて、
具体的には第5巻第72矢目:カワウの話です。
その中でシカの主な危険性として「E型肝炎」って書かれてます。


さてここからが、今回の本題です!

48時間以上冷凍したら「E型肝炎」の危険性から回避して、
安心してシカ刺しが食べられるものなのでしょうか?




実はこの問題は争点を整理しないと真実に近づけないように感じます。


例えば、イノシシやシカを現場で扱うときに、一番気をつけなければならないのは、「マダニ」です。
確かにマダニは怖いですが「昆虫」です。冷凍すればあっけなく死にます。

イカ刺しで問題となる「アニキサス」は線虫という寄生虫です。
同じく冷凍すれば死にます。安全です。

食材としての危険性を問う場合の「寄生虫」問題は、単純に「冷凍殺菌」が可能です。


次に「サルモネラ」のような細菌「水虫」のような真菌といった生物の場合です。
これら細菌や真菌は冷凍したところで殺菌できない菌種がほとんどです。
冷凍では死にませんが、水分を媒介として増殖するために、増殖する水分がない「冷凍」という環境下では増殖できません。

「死なないけど増えない」
これがポイントです。

海中にはサルモネラ菌や腸炎ビブリオ等の食中毒菌が多数存在します。
しかし、海水浴中に多少大目に海水飲んでも食中毒は起きません。
食中毒菌が悪さするためには「数」が必要なんです。

魚を取ったらすぐに冷蔵あるいは冷凍し、刺身にしたらすぐに食べる。

地球上に無菌状態なんてありえませんから、魚には多かれ少なかれ、食中毒を起こさない程度の量の食中毒菌が存在します。
なぜ多少の食中毒菌で食中毒にならないかというと、人間が食べたものは、胃酸という強酸にすぐにさらされるからです。
まあだいたいの細菌はこの強酸下では生きてられません。
魚の刺身が食べられるのもこの原理です。

問題はやはり、適度な温度環境と豊富な水分下に放置すると、細菌は爆発的に増殖します。
いかに人間が優秀な免疫機構と胃酸による殺菌システムを備えているとはいえ、爆発的な物量で突破されると、病気を発症してしまうわけです。


さて最後に「E型肝炎」を筆頭とした「ウイルス」です。
だいたい、ウイルスって「生物」なのでしょうか?「無生物」なのでしょうか?
詳しくはこの本に書かれてます。科学系ミステリーが好きな人なら最後まで一気です。


現在はウイルスを「物体」いわゆる「無生物」と扱います。
まあでもウイルスを「食中毒」の観点だけで考えると、細菌もウイルスも同じ扱いで良いと思われます。
寄生宿主が生命活動を停止している時点で、細菌と違ってウイルスは増えることができません。
しかしその状態で冷凍された時点で減ることも許されなくなります。






さて現時点での「厚生労働省」の野生肉の生食に対する回答がこちら。

2003年の記事ですが、
Q10シカ肉初めてE型肝炎が特定された事例だと報告してます。
もう1つ同記事Q9イノシシ生肝臓食べて、1名劇症肝炎死亡


・・・。
まあ言いたいことありますが、次へ。


今度は「国立感染症研究所」のHPから拾ってきた記事。

ざっくり私なりにまとめると、
「イノシシにはE型おるでえ!!」
「シカにはほぼE型みつからんわあ!!」

って読みました。


さてここまで、いろんな話を含めて!

さて!あなたの目の前に、新鮮な鹿の背ロース肉があります!
山賊ダイアリーファンのあなたは、48時間以上冷凍しました!
冷凍したうえで、今回の記事の情報得ました!

さああなたなら「シカ刺し」を食べますか?食べませんか?
あるいはもし食べるとしたらどんな調理方法を選びますか?







私の判断は、先に記事にしてます。
生シカ肉をたたきにして食べました。

それもカツオのたたきのように、ほぼ表面だけパッと焼いて、中はレア状態です。
いわゆる中心温度を63度くらいまで上げるような、ローストビーフ的な調理方法ではありません。
分類としては「生肉」料理です。

それでも私は「これで十分OK」って判断しました。



最近の研究結果や報告なども気になりますが、
やっぱり私は最大の判断材料として「先人たちの知恵」に従いました。


現在安全思考の強すぎる日本において、死者が出た「食中毒」事件後、牛肉ユッケを提供する店をまあ見ません。
逆に言うと、それまで「ユッケ」「生レバー」も牛肉は普通に生で食べてました。

同じく鳥専門店で「鳥刺し」を最近見なくなりました。
福井県人お馴染みの「秋吉」でさえ、昔々は鳥刺しのメニューがありました。
私は砂肝の刺身が好きでした。
鶏も生OKでした。

しかし、豚肉だけはレア状態の食肉は、昔々その昔からNGでした。
ウイルスって存在が発見されたのは電子顕微鏡が発見された後なので、人類史上「ごく最近」って言ってもおかしくないんです。

原因が発見される前から「やめとけ!」って先人の知恵は、気が遠くなるほどの「人体実験」の結果です。

私はそれを尊重します。

実際に、「豚肉」「E型肝炎」って検索かけると、家畜豚でも結構な保有率がいるって記事が、次々出てきます。
E型肝炎って経口感染、いわゆる「糞口感染」でうつるので、イノシシあるいは豚の肝臓の生食なんて論外です!


次に、先人たちは生のシカ肉にそれほど危険性を感じてない歴史を築いています。
まあ確かに野生のシカ肉の表面には、目に見えない危険性がいろいろあるかも知れません。
でも、衛生的にちゃんと処理さえすれば、シカ肉本体には経験上危険性がなかった歴史を持つわけです。

厚生労働省の記事で、シカ肉を食べて7人中4人がE型肝炎になった事例。
いろいろ調べてみると、元々冷凍シカ肉解凍後刺身で食べたようです。

これもいろいろ調べましたが48時間以上冷凍したかどうかわかりませんでした。

もっというと、もっと問題なのが、そのシカ肉の捕獲方法です。
わな猟で散弾銃頭止め刺しなら一番問題ないです。
そのシカ肉、忍び猟での心臓あるいは肝臓に当たって、血を巻き散らかせながらの捕獲ではなかったのか?ってことです。

ただいずれにせよ、シカ肉の生食が安全だという歴史がありながらも、冷凍シカ肉からE型肝炎患者が出て、そのウイルスが残されたシカ肉から特定されたことは「事実」らしいです。

まずは、事実は事実として目をそむけないことが大切だと私は思ってます。




さて、次にシカの解凍肉刺身で食べたという事実ですね。

だいたい人間も含めて「体内」ってきれいなんですよね。
汚れているのは「体外」です。
だから解体時が一番汚染される危険性があります。

体外の毛の部分を切ったナイフそのままで、解体するわけです。
切り分けられた肉の内部よりも、その外側のほうが「汚れている」って考えたほうが自然です。
もちろん頸動脈や心臓切って、血だらけになったナイフでそのまま現場では解体するわけです。
私も今期、イノシシとシカの解体現場の経験を積みました。
目の前で見たからこそ言えるんです。そんな汚染された肉を刺身で食えるのか?って。

だから私は刺身ではなくたたきにしました。
表面を高温殺菌した理由がこれです。

前回の記事で、インスタ映え考えるのなら、たたき肉にソースかけて食べるほうが見た目は抜群に良くなります。
そんなことわかってます。私だってブロガーですから、味はもちろん見た目も美しい料理写真を撮りたいに決まってますよ。

それでも私はたたき肉を薄切りにした後マリネしました。

この行為で、見た目は残念になります。知ってます。しかし利点があります。
表面的には殺菌しましたが、筋組織内部にもし万が一ウイルスがいた場合・・・ってこと考えると、これがベストなんです。
つけ汁にはバルサミコ酢の酸があります。これを肉の内部まで浸透させることで、多少菌が減るかもしれません。
「肉内部の減菌効果」
これは少しでも危険度を下げたい私にとって大きなポイントです。


次に、多めのつけ汁ってのもポイントです。
つけ汁は味付けを濃い目にしてます。つまり浸透圧効果で、筋組織内部の水分を吸い出してくれます。
これが狙いです。
もし万が一、筋組織にウイルスがいたとしても、つけ汁の吸い出し効果で、筋内部からつけ汁のほうに多少のウイルスが流れる可能性があります。薄まるんです。これも効果的だと考えてます。

前回のシカのたたきの最後の皿の盛り付け写真見てもらうとわかってもらえますが、不必要なつけ汁は十分に切ったうえで皿に盛りつけてます。
なぜつけ汁を多少大目に作るのか?って理由がこれです。

これも肉内部の体液を吸い出す「減菌効果」です。


とにかく、生肉を食べる以上は、完全殺菌なんて程遠い状態です。
殺菌できない以上、次に打つ手はできる限りの「減菌」です。



前回私がシカ肉を生食した根拠は、
1.先人達が生のシカ肉は安全という歴史を残したこと
2.肉表面を十分な高温殺菌したこと
3.マリネ液で肉内部の菌を減菌したこと
この3つです。


確かにこれでも「完全殺菌」ではありません。

絶対的な安心を求めているなら、私の提案は「危ない」の一言に尽きますよ。
もちろん自己責任で食べました。





今回は、いろいろな角度から「生食」の危険性と安全性について語ってみました。

やっぱり問題はウイルスですね。
インフルエンザを代表するように、ウイルスは進化が速いんです。
そのために、やっぱり元々はE型肝炎ウイルスが野生シカにはいなかったのではないか?と私は予想します。
それが昨今シカを宿主にするE型肝炎ウイルスが進化したのではないかと。

そう考えると、今年はこの方法で安全だったとしても、
10年後?5年後?あるいは来年には、こんなやり方じゃ太刀打ちできないような、シカE型肝炎ウイルスが出てくるかもしれません。

でも、私は「猟師」です。

まだ見ぬ進化系におびえるよりも、今、目の前にある食材を現時点の情報で、どうやって美味しく食べるかのほうが大切なことだと考えてます。

あっはっは!
猟師がジビエ肉におびえてどうする?!

私の現時点での生のシカ肉との距離感はこんな感じです。






2019年1月7日 追記

私の愛読書の1つである「ぼくは猟師になった (新潮文庫)」の中で、作者の千松さんはこう述べてます。

「シカ肉はなんと言っても生で食べるのが一番です。ただ、数年前にE型肝炎に感染した人が出て問題になりました。しかし、その事例では、知り合いから譲り受けたシカ肉を家庭用冷凍庫で数ヶ月も保存した後に生食したといいます。シカが本当の原因だったかも定かではありません。実際、日本の猟師は長年、シカの生肉を食べ続けてきました。また、地方の料理屋などでは普通にメニューとして並んでいるので、僕は問題ないと判断しています。」
(一部抜粋)

本書の初刷りが2008年、前述したシカ肉からE型肝炎ウイルスが見つかり、厚生労働省から正式に文章が出たのは2003年。
数年前に問題になった事例というのは、間違いなくこの事例のことをさしているでしょう。

もう10年以上も前の出来事です。今では千松さんは結婚され子供もいるとか。
まだ小さな子供たちに、千松さんはシカの生肉を食べさせているのでしょうか?
それとも結婚を機会にシカの生食を辞めたのでしょうか?
それはわかりませんが、現在の千松さんの意見を聞いてみたいものです。

それはさておき、2008年の千松さんの意見を、2019年の私は大いに同意したいと思います。
やっぱり自信につながるのは、2003年以降のこの15年ほどの間、シカの生食で大きな問題になった事例が表面上現れなかったということです。

私はシカの生食を続けるつもりです。







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