ジビエ肉は「血抜き」が不適切だから臭いのか?

猟期が終わって1週間ほど経ちましたが、なんかその余波に佇んでいる今日この頃です。
で、昨日久しぶりに冷凍のイノシシ肉を解凍し、久しぶりにジビエ肉を食べて、改めてジビエ肉に対して感じ考えたことがあるので、報告します。

さて、先日終猟した今期3年目は、本当にいろいろな狩猟鳥獣と向き合うことができました。
向き合うことができたというのは、狩猟だけでなく、解体と精肉と調理という流れも含めての話です。
で、今回問題にしたいのは、ジビエ肉が臭う問題。
いわゆるジビエの血抜き問題です。

猟師系の本や雑誌には、あたりまえのように、
「美味しく食べるためには血抜きが必須!!」
って書かれてます。でもですね、
「ジビエ肉の臭みは血液だ!」
って教えだけは、どうしても純粋に首を縦に振ることができないけど・・・でも先人の言葉を信じて、わな猟の手伝いの時には、できる限り抜く努力をしてきました。

記事後半を読んでもらえばわかりますが「肝臓」はダメでした。

この記事に追記するように当時の様子を書き足します。
やっぱり血液色のドリップは「E型肝炎」の危険性も高いので、初めて持ち帰った部位に最大の注意を払いました。
一口大の大きさに切り分けたレバーをボウルにとり、水を流しながら多少力入れて水洗い、次に塩を多めに振って揉みこんでから水洗い。
これを繰り返すと、実は延々とドリップとの格闘となりました。
やってるうちに、当たり前じゃないかと。
肝臓は隅々まで毛細血管がいきわたった血液メインの臓器じゃないかと。
あの健康そうなレバーの色は、そもそも健康な血液の色なんじゃないかと。
そして、やり過ぎの血抜き作業を続ければ、レバーとしての「旨味」もドンドン流れ出てしまうんじゃないかと。
で、最終的に、このレバーを素人料理したら、案の定ぱっさぱさのボッソボソなのに、強烈な野生臭だけがてんこ盛りでした。
この時に理解したんです、
野生臭は血抜きだけの問題ではない!
と。

この疑問に答えてくれたのが、この記事です。
で、その記事の抜粋です。
ーーーーーーーーーーー
[point3]100℃未満の “余熱”で火を通す
レバーの温度が100℃になると、アラキドン酸(脂肪酸)という成分が鉄と反応し、酸化アラキドン酸という成分に変わる。この酸化アラキドン酸こそが、臭みの最大の原因となる。
その対策として、保温性の高い厚手の鍋を使って100℃未満の“余熱”で火を通せば、臭みの発生を押さえることができる。
ーーーーーーーーーーーー
なるほどなあ・・・脂質も多く血液中の鉄分も多い肝臓において、どれだけゴリゴリ血抜きしようとも、フライパンで普通に焼けば臭くなるってか?!
なんか納得です。


まあ断言はできませんが、個人的な意見として話を続けます。
正直猟師になってから、ジビエ肉いわゆる野生の個体の「匂い」を決めるのはいくつか原因があるように思えるようになりました。

例えば、食生活です。
カモで言うと、肉食の海ガモの肉が臭うというように、時期と場所によって、イノシシが食べたものによった匂いが出る可能性は否定できません。

例えば、年齢です。
鶏でも若鶏はくせがなく柔らかい肉質です。同じことはイノシシでも言えて、ウリ坊はジビエとは思えないほど食べやすい肉です。

例えば、性別です。
オスが臭いことが明らかで、家畜肉は基本的にメスです。オスの家畜の場合、オス臭を出さないように「去勢」されます。
立派なオスイノシシってだけで臭うことは、これだけでも想像できます。

例えば、糞尿臭です。
腎臓や大腸が臭うことは、イノシシだけでなく全ての動物で共通の出来事です。
解体時にそそうすれば、あっという間に匂いの汚染は広まります。

そして例えば、腐敗に関する匂いです。
解体経験があるからこそわかるんですが、毛皮に包まれた「内臓」は、止め刺しした後も、いつまでも温かい状態を保ち続けます。
そして胃腸には「消化酵素」が多数含まれます。
いわゆるタンパク質や脂質を消化するための酵素です。
でも、消化酵素は自分の内臓は消化せず、食べ物だけを消化します。
これは、動物が獲得した複雑な機構をもつ能力です。

しかし「死」の瞬間から、これらの制御が外れ、消化酵素は自らの体を分解し始めます。
制御が外れることで、体内で腐敗が始まります。

解体に手間取った場合、この腐敗臭が肉に回るのではないかと思われます。
もっというと、腐敗臭の大きな原因の1つに「血液」があるんじゃないかと。
血液って、酸素も含め全ての栄養分を各臓器に運ぶ、栄養満点の生暖かい液体です。
死を迎えた生き物が、まず内臓それも血液や腸から腐敗を始めてもおかしくはないはず・・・。


で、最後にアラキドン酸の話。
これは、今まで私が述べた「匂い」の原因とは、実は別次元の話です。
今まで述べてきたのは個体の育ちと解体の状態と腐敗の話です。
しかしアラキドン酸の話は単純に「料理技術」の話です。
誤解を恐れずに言うと「猟師」「主婦」の目線くらい違った話です。
違った話ですが「ジビエが臭う」って話では、この2つの視点は外せないと、私は考えます。

いわゆる「個体」のクセ「猟師」の処理が不完全であること、
そして「料理段階」でのテクニックの差が、ジビエが臭うっていう最大の理由だと、私は考えます。
「元から臭い肉は何しても臭い」
「解体を間違うと臭くなる」
「美味しいジビエ肉でも調理法を間違えば臭くなる」
これが、数年猟師をやり、長年ジビエ肉を調理してきた私の持論であり、今のところの結論です。

何年も育ち発情期を迎えたオスイノシシのように、元から臭い肉は何しても臭いです。

解体するまでに放置したり、解体時に不要な部位を切り裂いたりすると、どうしても臭いです。

血管と脂肪の濃密な部位のジビエ肉の場合、100度以上の短時間加熱料理をすると、臭いです。


簡潔な答えがないために、タイトルに対する私なりの答えを、ダラダラ書き綴ってきた感じの記事となりました。
何が間違っていて、何が正しいのかは、この記事を読んだ皆さん個人個人が判断してくださいね。


P.S.ジビエが「臭い」って問題だけでなく「固い」って問題もあります。
でも、固い肉問題は「ぼくは猟師になった」に簡潔に書かれてます。
豚は半年で100キロ近い体重になる・・・サイズは大人でもまだ子供の状態の肉が流通している・・・。
これですね、半年の豚なんてガキですよ!イノシシにとっては!
3歳のオスイノシシの肉が固い?!
違う違う!流通している食肉全てが若くて柔らか過ぎるんです。
本当に成熟した肉は固いんです。そんな肉がスーパーに並ばないだけ。

固さ問題は私の中では解決しています。
もう1つは、安全確保ギリギリのミディアムレアで仕上げる方法
どちらの方法も、今期成功しました!
興味ある方はお試しあれ!

この記事へのコメント

  • 黒猫

    科学的な考察、さすがですね。
    わたしの場合は経験によるモノですが、ご指摘の通り、血液そのものは大きな問題になりにくいと思います。

    私は頸動脈を切って血抜きしてからすぐに解体にかかりますが、切り込みが不十分だったり体の位置などが問題だったりして血抜きが不完全で、解体の途中で腋下動脈や鼠径動脈に切り込んだ際に大量出血してくることがあります。

    当然、ウデやモモは血抜きが不十分な状態だという事を示しますが、食べたときには特に問題を感じません。

    ラムとマトンの違いのように、イノシシも年齢などで大きく違ってくるのですね。
    2020年03月03日 16:13
  • morimori

    イノシシの解体やカモの腸抜きしてみて思うのですが、皮剥ぎしても毛毟りしても、脂肪層があるので、体内の温度がそれほど下がりません。
    しかし腹腔から腸を抜いてしまえば、イノシシの場合外気温で、カモの場合水洗いで、体内温度が急激に下がるのを感じます。
    つまり、黒猫さんの解体方法だと、例え血抜きが不完全でも、余計な腐敗臭が付かないために、ジビエ肉が美味しく食べられるんだと思います。
    2020年03月04日 09:31